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札幌高等裁判所 昭和51年(行コ)6号 判決 1977年10月27日

控訴人(原告) 第一小型ハイヤー株式会社

被控訴人(被告) 北海道地方労働委員会

補助参加人(被告補助参加人) 第一ハイヤー労働組合

〔原審〕 札幌地方昭和四八年(行ウ)第七号(昭和五一年一〇月二一日判決)

主文

原判決を左のとおり変更する。

被控訴人が、昭和四七年道委不第一二号不当労働行為救済申立事件について、昭和四八年五月二五日付でした命令中、主文第一項の部分を取消す。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人と被控訴人との間に生じた分及び参加によつて生じた分をいずれも二分し、その各一を控訴人の負担とし、その余は、控訴人と被控訴人との間に生じた分を被控訴人、参加によつて生じた分を被控訴人補助参加人の各負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が、被控訴人補助参加人と控訴人との間の昭和四七年道委不第一二号不当労働行為救済申立事件について昭和四八年五月二五日にした命令のうち、主文第三項を除き、その余の命令を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、控訴代理人において当審証人平田利夫の証言を新たに援用したほか、原判決の事実摘示(但し引用の原判決添付別紙命令書については、原審裁判所の昭和五二年一月一九日付更正決定による更正後のもの)と同一であるから、これをここに引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人会社において、被控訴人補助参加人組合所属の組合員に関する職制上の昇格につき被控訴人主張のような不当労働行為をしたと判断するものであつて、その理由は、次に訂正、付加するほかは、原判決の理由欄一及び二(但し、原判決五枚目裏一一行目から同一二枚目表一三行目まで)に記載の理由説示と同一であるからこれをここに引用する。

1  原判決六枚目表三行目の「タクシー業」の次に、「(但し、昭和三六年頃までは主としてハイヤー業)」と加える。

2  原判決六枚目表一三行目の次に行を改めて、「別紙命令書第1の2「これまでの労使紛争」の項記載の事実は当事者間に争いがなく、これに弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。他に、これを左右する証拠はない。」と付加し、同七枚目表六行目から七行目にかけて、「、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない」とあるのを削る。

3  原判決八枚目裏一〇行目から一一行目にかけて、「班長」とあるのを「指導運転手」と改める。

4  原判決八枚目裏一一行目(同、上四八六頁九行目)の「参加組合」を「参加人組合」と改める。

5  当審証人平田利夫の証言も、以上のとおり訂正、付加して引用する原審の認定判断を左右するに足りない。

二  そこで、次に、本件不当労働行為に対する救済措置の適否について判断する。

不当労働行為救済制度は、使用者が行なつた違法行為を是正し、このような違法行為のない状態を作り出すことを目的とし、そのため必要とされる具体的妥当な救済措置を講ずることを予定しているものであるから、労働委員会は過去の違法行為の単なる排除にとどまらず、現に具体的に予想される将来の同種類似の違法行為をあらかじめ禁止する救済命令を発することも可能であり、事案によつては、使用者の人事権を多少は制約するような結果となる救済措置を命ずることを容認せざるをえない場合もありうるものというべく、その具体的な選択は労働委員会に委ねられた裁量の範囲に属することがらであるが、このような裁量にも救済制度の目的と使用者の有する経営管理上の人事権との比較考量の上から当然に合理的な限界があるものといわなければならない。

ところで、控訴人が従来被控訴人補助参加人組合を嫌悪し、同組合からの公平人事の要求をも無視して班長職または班長相当職とみるべき指導運転手への昇格人事につき、被控訴人補助参加人組合所属組合員であることを理由として同組合員を昇格させないという不当労働行為を行つてきたものであることは前記認定のとおりであり。この事実と、すでに認定した控訴人と被控訴人補助参加人間の従来の労使紛争の経緯とを併せ考えると、控訴人は今後とも班長または班長相当職への昇格人事において従来同様の不当労働行為を反覆する具体的なおそれが現存すると認めるのが相当である。したがつて、被控訴人が救済命令を発して、将来の同種の不当労働行為をあらかじめ禁止するための措置を命ずることは当然である。しかし、本件救済命令第一項において被控訴人が命じた具体的救済措置の内容は、従業員総数に対する被控訴人補助参加人組合所属組合数に比例する限度で同組合員を優先的に班長または班長相当職に登用すべきことを命じているものである。一般に昇格人事における昇格適格性の判断に当つては、該当者の人格、識見、能力等を総合的に判断し、その職に最も適切妥当と評価し得る者を選定するのが当然の事理であつて、控訴人会社においても、班長または班長相当職への昇格人事に際しては、勤続年数、欠勤率、事故の有無態様、勤務成績、協調性、指導力等を総合的に勘案してその適格性を判断する建前をとつているものであることは前記認定のとおりであるから、本件救済命令主文第一項がこれらの適格性判断の基準を度外視して、従業員総数に占める組合員数の比率を唯一の基準として被控訴人補助参加人組合所属の組合員を優先的に昇格させなければならない旨を命じたことは、昇格人事の本質にかんがみ、著しく不当に控訴人会社の人事権を制約し、これに介入するものといわなければならない。控訴人会社内での班長職または班長相当職への昇格人事における被控訴人補助参加人組合所属組合員の処遇の公平を確保するためには、控訴人に対し、班長職または班長相当職への従業員の登用に当り、被控訴人補助参加人組合所属組合員であることを理由としてその組合員を他組合員より不利益に取り扱つてはならない旨命ずれば足りたことである。したがつて、本件救済命令主文第一項は、被控訴人に与えられた裁量の限界を逸脱し、不当に控訴人会社の人事権に制約を加えた違法あるものとして、取消を免れないといわざるをえない。

なお、本件救済命令は、その主文第二項において陳謝文の手交を命じているが、前記認定判断に照らすと、同項記載の救済措置は相当として是認すべきものであり、これに裁量権の逸脱ないし濫用があるとは認められない。

三  以上のとおりであるから、本件救済命令中主文第一、二項の取消を求める控訴人の請求は、主文第一項に関する限度で理由があるが、その余は失当として棄却すべきものである。しかるに、これと判断を異にし、控訴人の請求をすべて棄却すべきものとした原判決は、本件救済命令主文第一項に関する限り不当であつて、本件控訴はその限度で理由があり、他は理由なしとすべきである。

よつて、右摘示の趣旨で原判決を取捨変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法第九六条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石沢健 山田博 永吉盛雄)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 原告の請求を棄却する。

二 訴訟費用は、原告と被告との間に生じた分および参加によつて生じた分とも、すべて原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一 被告が、昭和四七年道委不第一二号不当労働行為救済申立事件について、昭和四八年五月二五日にした命令のうち、主文第三項を除き、その余を取消す。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一 主文第一項と同旨

二 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一 被告補助参加人第一ハイヤー労働組合(以下参加人組合または単に組合ともいう。)は、原告(以下単に会社ともいう。)が参加人組合に所属する組合員に対し職制上の昇格について差別していることは不当労働行為であるとして、被告に対し救済の申立をなし、これに対して、被告は昭和四八年五月二五日不当労働行為であるとの主張を容れて、別紙命令書(本件命令書)記載のとおりの救済命令(本件命令)をなし、同命令書は同年六月二日原告に送達された。

二 しかしながら、本件命令のうち主文第三項を除くその余の部分は、不当労働行為と誤認してなされたものであり、また右命令の内容においても、不当労働行為制度の本来の原状回復という目的を逸脱し、将来原告が行なおうとする昇格人事に支配介入するものであつて、これは使用者たる原告の裁量領域に介入した被告の権限濫用行為にほかならず、右二点において違法があるから、その取消を求める。

(請求原因に対する被告の認否)

一 請求原因一の事実は認める。

二 同二の主張は争う。

(被告の主張)

被告は、本件命令書記載のとおりの事実認定および法律判断により本件命令をなしたものであつて、何らの違法はない。被告は、同命令書のとおり事実上および法律上の主張をする。

(被告の主張に対する原告の認否および反論)

一 被告が本件命令書において認定した事実(命令書第1)について

(一) 第1の1「関係者」(一)ないし(四)は認める。

(二) 第1の2「これまでの労使紛争」は認める。

(三) 第1の3「会社の本社営業所の職制」は認める。

ただし、現在は「営業所」が「営業課」と変わり、「所長」の職名は「課長」と名称が変わつたほか、次長、主任および班長の数はそれぞれ一名、四名、八名(営業六名、整備二名)に変わつている。

(四) 第1の4「従業員の昇格」(一)(二)は認める。同(三)のうち昭和三九年および同四二年以降についてすべて入社順序に従つているとの点は否認し、その余の事実は認める。同(四)は認める。

二 被告が本件命令書においてした判断(命令書第2)について

(一) 第2の1は認める。

(二) 第2の2は認める。

(三) 第2の3は争う。

1 第2の3<1>は認めるが、原告の不当労働行為を認定する一資料として採用しているのは誤りである。会社における班長職は、会社従業員の運転業務を直接に監督する立場にあり、安全運転、乗客へのサービス等の指導のほか、従業員の健康管理、従業員間の融和協調への配慮等をその職務内容とする以上、班長を任命するに当たつては会社に三年以上勤務し、その勤務態度、指導力、職場での調和性、健康状態、車輛の知識、現業においての事務能力、遵法性、重大事故の有無、出勤状況等を総合考慮して右職務内容に適するか否かを判断しているものである。参加人組合の組合員の中から班長職に昇格した者がないのは、右判断の結果、同組合員の中には適任者がないとされたからにほかならず、したがつて右事実をもつて原告の不当労働行為を認定する資料とすることは許されない。

2 第2の3<2>は否認する。

班長職への昇格について、原告が会社に三年以上勤務した者の中から選んでいることは認めるが、右に述べたごとく、それは班長の選任に当たつての一資料に過ぎない。要するに、原告会社は班長職への昇格について適材適所主義によつているのであつて、年功序列といつた非合理的な方法によつている事実はない。

3 第2の3<3>は争う。

およそ班長職昇格人事については、単に班長職として不適格とする特別な事情がないという消極的判断ではなく、この者こそ班長職として適格があるとの積極的な判断がなされなければならない。しかるに、被告の右判断は「不適格とすべき特段の事情は立証されなかつた」とするにとどまるのであるから、昇格人事の見方を誤るものである。

4 第2の3<4>は否認する。

原告は参加人組合と協調し、会社経営の円滑に行なわれることに努力こそすれ、組合敵視をしたことはない。

5 第2の3<5>は否認する。

被告の右主張は、具体的に如何なる世話が不十分であつたかが明確でなく、その証拠も明らかでない。

原告は、参加人組合の組合員から班長の同組合員に対する取扱に行き届かない点がある、との苦情を全く受けたことがないことからしても、右主張は誤りである。

(四) 第2の4は争う。

第三証拠<省略>

理由

一 本件命令の存在

請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二 本件命令の適否について

(一) 不当労働行為の成否

(事実関係)

1 原告と参加人組合

原告は肩書地においてタクシー業を営み、従業員二八〇名余、車輛台数一一〇台余を有していること、参加人組合は昭和三一年一一月原告会社従業員をもつて結成され、同四八年ころの組合員数は五〇名余であり、全日本自動車交通労働組合北海道地方札幌連合会に加盟していること、および原告会社従業員中約二三〇名は、同三七年春の会社と参加人組合間の争議中に同組合とは別に新たに結成された第一小型ハイヤー株式会社新労働組合(以下新労という。)に加入していること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2 原告と参加人組合間の労使紛争の経緯

原告は、昭和三七年五月八日同年春闘の際に業務妨害行為をしたこと等を理由として当時の参加人組合の執行委員長(及川静雄)を、同三八年一一月二八日には右春闘以降に組合に違法な争議行為があつたことを理由として当時の副執行委員長(飯村平)ら一〇名を、それぞれ懲戒解雇したこと、これに対し、参加人組合は原告の右懲戒解雇はいずれも不当労働行為であるとして被告に対し同三七年六月と同三九年二月にそれぞれ救済の申立(昭和三七年道委不第一一号、同三九年道委不第六号)をし、同四一年七月一四日それぞれ一部救済の命令がなされたこと、しかるに原告はこれを不服として行政訴訟を提起したので、被告は右命令について緊急命令の申立をし、これが認められたが、原告はこれに服しなかつたこと、しかし原告は同四五年一二月、右緊急命令に従わないため過料の制裁を受けたことからようやくこれに服し、前記一一名の被解雇者の職場復帰を認めるに至つたものの、後の事件についてはいまだ行政訴訟を係属させていること、参加人組合はさらに同四七年四月、両組合の昇格問題について原告が団体交渉を拒否しているとして被告に対し救済の申立(昭和四七年道委不第一一号)をする一方、別途本件救済の申立をもなし、それぞれ一部救済の命令がなされたこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

3 原告の本社営業所の職制

原告の本社営業所は、昭和四八年ころ所長のもとに次長二名、主任三名、班長一〇名(営業七名、整備二名、事務一名)、指導運転手二名を含む運転手約二五〇名をもつて構成されていたこと(なお、証人高橋信行、同平田利夫の各証言によると、その後営業所は営業課と、所長は営業課長とそれぞれ名称が改められたことが認められるが、次長、主任および班長の人数に変更があつたことについてはこれを認めるに足りる証拠がない。)、原告会社の職制は、古くは班別に編成されないままに比較的古参の運転手に班長の名称を与え、これを新入運転手の教育に当たらせる一方、一般の運転手と同様に乗務させていたが、右名称が勤務の実態にそぐわないため、同三六年にこれを廃止して指導運転手と改め、その後同三七年には会社の営業形態がハイヤー業から次第にタクシー業に移行してきたことに伴つて、班長制度を復活し、その保有車輛を班別に編成して班長を置き、指導運転手の中からこれを登用するに至つたこと、そして現在、班長は原則として乗務せず、班長一人当たり約一五台の車輛と約三〇名の運転手を掌握してその事故処理、売上金の収受、新入運転手の指導等の管理的業務に従事し、その賃金も一般の運転手より高額の固定給のほか職務給を受けていること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。そして、前掲平田証人の証言ならびに成立に争いのない乙第八号証の一ないし五、同第一三号証の三および五を総合すると、班長職の給与は運転手の給与と比べて若干下回る場合もあるが金額的に大きな差異はなく、一方、班長職は主任、課長等の上位の管理職へと昇進するための最も有力な地位であつて、現にここ約一〇年の間、班長職を経ずして主任等の地位に昇進した者はないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

4 従業員の昇格

原告は、昭和三四年六月参加人組合との間で、会社の運営、人事その他すべてにつき組合と協議して充分その意向を尊重し、これらを民主的に行なう旨および人事異動については本人の意向をも尊重する旨を協定し、同三七年に新労が結成されるころまではおおむね右協定に従つた人事その他が行なわれてきたこと、原告は同四六年三月一七日、右協定をその解釈について紛議が絶えないからとの理由で同年六月三〇日限り解約する旨を組合に通告したこと、同三八年以降班長(ただし、整備担当者を除く。)に昇格した人数は同三八年に一名、同三九年に三名、同四〇年に一名、同四二年に二名、同四三年に一名、同四五年に二名および同四六年に五名の合計一五名であつて、その勤続年数は、同三八、三九年の昇格者を除いた一一名については約九年であること、右一五名の昇格者はすべて新労に属し、班長であつたこと、参加組合の組合員前田五七夫、同古川達夫、同松野喜代春、同佐藤安三、同千代谷渥、同中島義一、同松尾豊、同川淵正光はそれぞれ同三四年四月一八日から同三七年三月二〇日にかけて原告会社に運転手として入社し今日に至つているが、右前田ら八名と同時期に入社して現在も勤務している者は、右前田ら八名および解雇を争つている者を除き、すべて同四六年三月一五日までに班長もしくは主任に昇格していること、前記の班長に昇格した一五名のうち三名は、右前田ら八名よりおくれて入社した者であること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

ところで、班長昇格の基準についてみるに、前掲高橋、平田各証人の証言および成立に争いのない甲第四、第五号証、第八ないし第一〇号証を総合すると、原告会社は班長職昇格人事を行なう際には、まず営業課長に対し勤続年数三年以上の者の中から候補者を推薦するように指示し、次いで営業課長が推薦した複数の候補者について専務取締役、総務部長、営業課長が共に検討したうえ、社長の決裁を得て昇格者を決定し、特に右検討に当たつては勤続年数(三年以上の者が対象となることは当事者間に争いがない。)のほか、欠勤率、事故の有無態様その他の勤務成績、協調性、指導力等の各要素が対象となつていること、入社時期の順序が班長あるいは主任への昇格の順序と全く一致しているわけではないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はなく、殊に、右認定に反し昭和三九年および同四二年以降の班長昇格者はすべて入社順序に従つている旨の被告主張の事実を裏付けるべき資料は全く存しない。しかしながら、新労結成後の乗務員から班長(ただし、整備担当者を含む。)への昇格人事について、前掲各証拠および成立に争いのない乙第七号証の一、二を仔細に検討すると、(1)昭和三七年度昇格者は、その昇格の当時、入社順序が参加人組合の組合員以外の乗務員(原告会社から解雇通知を受けている者を除く。)中、同組合員を除いて第二、第四番目(同組合員を加えると第二、第五番目、以下括弧内は同趣旨)、(2)同三八年度昇格者は第一二番目(第一九番目)、(3)同三九年度昇格者は第二、第三、第九番目(第三、第四、第九番目)(4)同四〇年度昇格者は第三番目(同上)、(5)同四二年度昇格者は第一、第二番目(同上)、(6)同四三年度昇格者は第一番目(同上)、(7)同四五年度昇格者は第一、第三、第四番目、第三、第八、第九番目)、(8)同四六年二月一五日付昇格者は第一番目および順位不詳者)(第六番目および順位不詳者)、(9)同年三月一五日付昇格者は第一、第二番目(第七、第一〇番目)、(10)同年九月一六日付昇格者は第一ないし第三番目(第九ないし第一一番目)、(11)同四八年度昇格者は第一四番目以内の順位不詳者(第二二番目以内の順位不詳者)であること、しかして右昇格者はすべて参加人組合の組合員以外の者によつて占められていること(なお、昭和三八年以降において整備担当者を除き班長職に昇格した一五名は全員が新労に所属する者であつたことは当事者間に争いがない。)がそれぞれ認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、本件全証拠によつても、右昇格した各人にき如何なる点において班長職として適任であるのかは明らかでない。したがつて、右事実関係のもとにおいては、参加人組合の組合員を除外して考える限り、原告会社への入社時期という要素は、班長昇格者を選任する基準として絶対的なものとまではいえないとしても、極めて重要な要素であり、特に昭和三九年以降においてその重要性が高まつてきていると推認せざるを得ないところである。

そして、前掲第八号証の一ないし五、同第一三号証の三、五および成立に争いのない乙第八号証の六、七、同第一一号証の一ないし二二、同第一二号証の一ないし三、同第一三号証の一、二、四を総合すると、現在原告会社の班長あるいは主任の職にある者と同時期に入社し、かつ、参加人組合に所属する者の中にも、永年原告会社の運転手として職務に精励し、無事故運転で社団法人札幌乗用自動車協会から表彰を受け、あるいは会社から業務に精励したとの理由で表彰を受ける等、勤務成績が優秀である者も数多く認められ、右の者について班長昇格を不適格とすべき特段の事情は豪も存しない。なお、被告が班長の組合員に対する世話が行き届いていないと主張するような事実は、これを認める適確な証拠がない。

(事実関係に対する判断)

原告会社の班長職が、現在、全員新労所属の組合員によつて占められ、参加人組合の組合員は一人としてその地位にないのであるが、これは、以上の当事者間に争いのない事実と認定した事実とを総合すれば、原告が主張するように適材適所主義で人選をした結果であつて参加人組合の組合員であるが故に昇格をはつきりさせなかつたものではないとはとうてい認めることができない。かえつて、前述した労使紛争の経緯等に徴するときは、原告会社はことさら参加人組合を嫌悪し、同組合に対して敵意を抱いていたものと推認せざるを得ず、班長職昇格人事においても、参加人組合の組合員であること自体をもつて昇格者決定の際の極めて重要な要素として取り込み、同組合員である場合にはこれを理由として班長に昇格させなかつたものと認むべく、結局、原告において不当労働行為を行なつたものと認定すべきである。前掲甲第八ないし第一〇号証、高橋、平田各証人の証言および成立に争いのない甲第二、第三号証のうち右認定した事実と牴触する部分は、前記の認定に供した各証拠に照して、とうてい信用することができないものである。

なお、原告の「被告の主張に対する原告の認否および反論」二(三)3における主張について判断する。被告が本件命令書において右主張でいうところの消極的判断しか示していないことは当事者間に争いのないところではあるが、成立に争いのない乙第三一号証(右命令書)を検討すると、右消極的判断は原告の不当労働行為を認定する一つの間接事実の判断としてなされているに過ぎず、右消極的判断のみによつて原告の不当労働行為を認定するに至つたものでないことは明らかに看取できるところである。したがつて、原告のいう積極的判断を示さずして原告の不当労働行為を認定したとはとうていいうことができず、原告の右主張は理由がない。

(二) 救済措置の是非

不当労働行為救済命令は、できるだけ不当労働行為がなかつたと同じ状態に回復することを目的とする行政処分であるから、不当労働行為があつた場合に、これに対し如何なる救済措置をとるかは労働委員会の裁量に属するところであつて、たとえ右措置が会社(使用者)の有する人事権に対して制約を加える結果となるにしても、申立の趣旨に反しない限り、個別的具体的事実に即して右の目的を達成するに適当な処分を命じ得るものと解すべきである。そして、前記の認定、説示に照らすと、本件救済命令の主文第一、第二項に各記載の措置が著しく不当で、裁量権の範囲を逸脱し、あるいはその権限を濫用したとかいうことはできない。

三 結論

以上によれば、原告の主張するところは理由がなく、他にその主張を理由あらしめるべき事情は何ら認めることができないから、原告の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九四条後段を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

命令書

(北海道地労委昭和四七年(不)第一二号 昭和四八年五月二五日 命令)

申立人 第一ハイヤー労働組合

被申立人 第一ハイヤー株式会社

主文

一、会社は、班長職または班長相当職に欠員を生じたときは、従業員中に占める組合員の数に比例する限度まで、組合員を優先してこれに就任させなければならない。

二、会社は、つぎのような内容の文書を組合の代表者に手交しなければならない。

会社は、貴組合が要求してきた昇格人事について、貴組合を嫌悪してこれを無視し、第一小型ハイヤー株式会社新労働組合の組合員のみを昇格させてきたことは、不当労働行為でありました。会社は、この点について深く反省し陳謝いたします。

三、申立人のその余の請求を棄却する。

理由

第1認定した事実

1 関係者

(一) 被申立人第一小型ハイヤー株式会社(以下会社という)は、札幌市の肩書地に本社および営業所を設け、車輛一一〇台余を保有し、従業員二八〇名余を雇用してタクシー業を営んでいる。

(二) 申立人第一ハイヤー労働組合(以下組合という)は、会社の従業員をもつて昭和三一年一一月結成された労働組合であつて、本件結審当時五〇名余の組合員を擁し、全日本自動車交通労働組合北海道地方札幌連合会に加盟している。

(三) 会社の従業員中約二三〇名の者は、昭和三七年春、会社と組合の争議中に結成された第一小型ハイヤー株式会社新労働組合(以下新労という)に加入している。

(四) 組合の組合員前田五七夫は昭和三四年四月一八日、同古川達夫は同年一〇月二三日、同松野喜代春は同三五年二月五日、同佐藤安三は同年一〇月九日、同千代谷渥は同三六年四月一八日、同中島義一は同三七年二月一日、同松尾豊は同年同月一六日および川淵正光は同年三月二〇日、それぞれ会社に運転手として入社して今日に至つている者であつて、いずれも、入社後短期日のうちに組合に加入した。

2 これまでの労使紛争

組合は、昭和三七年六月、会社が、同年の春闘の際に組合の執行委員長が業務妨害行為をなしたことなどを理由に、同人を懲戒解雇したことなどを、同三九年二月には、前記春闘以降に組合が違法な争議行為をなしたことを理由として、副執行委員長ら一〇名を懲戒解雇したことを、いずれも不当労働行為であるとして、当委員会に救済を申立てた。当委員会は、昭和四一年七月一五日、これらの申立てについて一部救済の命令を発したところ、会社は、両事件について行政訴訟を提起し、組合は、昭和三七年の申立事件について再審査を申立て、さらに会社は、再審査命令についても行政訴訟を提起した。当委員会および中央労働委員会は、緊急命令を申立て緊急命令が発せられたけれども、会社は、これを履行せず、過料の制裁が科せられて、昭和四五年一二月に至り、ようやく緊急命令に服して、被解雇者一一名を職場に復帰せしめたものの、いまだ行政訴訟を係属させている。さらに、組合は、昭和四七年四月、本件の内容である組合員の昇格問題に関して、会社に団体交渉を申し入れたが、会社がこれを拒否しているとして、救済を申立てた(昭和四七年道委不第一一号事件)。この申立てについて、当委員会は、同年七月一四日付をもつて「昇格人事の基準および適用について組合と誠意をもつて直ちに団体交渉を行なわなければならない。」との一部救済命令を発した。この命令は確定し、会社、組合間において、数回団体交渉が行なわれたものの、両者の主張は一致せず現在に至つている。

3 会社の本社営業所の職制

会社の本社営業所は、所長のもとに次長二名、主任三名、班長一〇名、(営業七名、整備二名、事務一名)および指導運転手と呼称される者二名を含め、約二五〇名の運転手をもつて構成されている。会社の営業形態は、昭和三六年頃までは、主としてハイヤー業であつて、車輛は班別に編成されておらず、比較的古参の運転手が、班長職について、新入運転手の教育に当るほかは、一般の運転手と同様に乗務するという実態にあつたが、同年、会社は、班長の名称が勤務の実態にそぐわないとして、組合と協議の結果、これを廃止して、指導運転手と改めた。翌三七年、会社は、札幌市内菊水町に支店を開設するに当り、営業の形態が次第にタクシー化してきていたところから、車輛を班別に編成して班長をおき、管理的業務に従事せしめることがより合理的であるとして、班長制度を復活し、指導運転手のなかからこれに登用し、現在班長職にある者は、原則として乗務せず、約一五台の車輛と約三〇名の運転手を掌握して、配車、事故の際の運転手の世話、収入の収受および新入運転手の指導教育などを担当し、一般の運転手より高額の固定給のほか、職務給を受けている。指導運転手は、会社の説明によれば、正式に職制としては既に廃止したものであつて、営業所における便宜上の呼称にすぎず、現在では、一般の運転手の公休、休暇、欠勤などに当つてスペアとなつて乗務し、乗務しないで他の業務に従事した場合は、一般の乗務員の固定給のほか、乗務した場合に換算した歩合給を受ける、いわゆる「乗り廻し」をする運転手を指すものであつて、賃金面でも一般の運転手と変りなく、将来の班長職に予定されてはいないという。なお、昭和四五年暮頃には、指導運転手と呼称されていたものが一〇名程度いたのであるが、現在は組合および新労に所属するものが各一名であつて、その他のものはいずれも昭和四五年および翌年にかけて班長職に昇格している。

4 従業員の昇格

(一) 会社と組合間において、昭和三四年六月、会社は、会社の運営、人事、その他すべてを民主的に行ない、組合と協議し充分その意向を尊重して行なう旨および会社は、組合員の人事異動については組合と協議し、本人の意向を充分尊重して行なう旨の諸条項を含む協定が締結され、昭和三七年に新労が結成される頃までは、それらの趣旨に従つて、人事などがおおむね行なわれてきたと認められる。なお、会社は、この協定を昭和四六年三月一七日付をもつて、解釈について紛議が絶えないのではつきりさせる必要があるとの理由のもとに、同年六月三〇日限り解約する旨の通告を行なつている。

(二) 会社は、営業所の従業員の昇格は、まず所長が次長と協議のうえ推せん対象者を選定し、ついで会社の専務取締役、総務部長、庶務課長および営業所長が合議のうえ、社長の決裁を得て、発令され、班長については、三年以上在籍する者のうちから、勤務態度、指導能力、職場での調和性、健康状態、車輛の知識、現業においての事務能力、重大事故の有無および出勤状況などを評価の基準として対象者を選定し、原則として営業所長の推せんがない以上、昇格させることはないものであるという。

(三) 昭和三八年以降班長(整備を除く)に昇格した者は、昭和三八年に一名、同三九年に三名、同四〇年に一名、同四二年に二名、同四三年に一名、同四五年に二名および同四六年に五名の合計一五名であつて、昇格までの在籍期間は、昭和三八年および同三九年の昇格者を除き、いずれも約九年である。昇格の順序についてみると、昭和三八年および同四〇年の昇格者間においては多少例外的な点もみられるが、昭和三九年および同四二年以降については、組合員である運転手は入社が古くてもこれを昇格せしめていないことが認められ、かつ昇格者はすべて新労に属し、指導運転手であつた者であり、また、すべて入社順序に従つていることが認められる。なお、前田ら八名とそれぞれ同時期に入社したものは退職者と解雇を争つている者を除き、すべて昭和四六年三月一五日までに班長ないしその上級の職制である主任に昇格しているほか、川淵よりあとに入社した者のなかでも三名が同年九月一六日までに班長に昇格発令されている。

(四) 組合は、昭和四五年以来数回にわたつて組合員の昇格問題に関して、会社の行なつている昇格取扱いは労働協約を無視するものであり、新労組合員のみを昇格させることは差別扱いであるとして抗議するとともに、これについて団体交渉をなすことを要求してきたが、会社は、組合の組合員には昇格該当者がいないこと、人事の昇格に関する問題は会社の人事権に関する基本的な権利であつて、組合との団体交渉によつてそれが左右されるいわれはないことなどの理由をあげて、これを拒否しつづけてきた。なお、この団体交渉拒否についての当委員会の命令およびこの結果については、前記認定のとおりである。

第2判断

1 組合は、会社との間に昭和三四年六月、従業員の人事に関しては年功序列的に昇格せしめるとの合意が成立したが、組合の組合員に関してはこれが無視されてきていることは不当労働行為であり、<1>昭和四六年五月一日付で組合員前田、古川、松野および佐藤を班長職に、千代谷、松尾、中島および川淵を指導運転手職に昇格させ、これにともない同人らが受けるはずであつた賃金相当額と現行賃金額との差額を支払うこと、<2>組合員の昇格について会社に存在する他の労働組合の組合員と差別扱いするなどの方法によつて組合の運営に支配介入してはならないこと、<3>組合員の昇格について、他の労働組合員と差別扱いしたことが不当労働行為であつたことを認め、これについて陳謝するとともに、今後このような行為を繰り返さないことを誓約する旨を内容とする陳謝文を掲示することの救済命令を求めている。

2 これに対し、会社は、組合の主張事実を否認し、人事の昇格に関する権利は会社の基本的権利であつて組合と協議する必要はなく、会社はその組織体の管理のため適時有能で適格な人材を選び昇格させているものであり、また、指導運転手職は制度上既に廃止されているものである。したがつて組合の組合員を昇格させなかつたことは不当労働行為を構成するものではないとして、申立ての棄却を求めている。

3 前記認定した事実および審問の結果によれば、<1>会社が昭和三七年以降組合に属しない者のみを班長職に昇格させてきたこと、<2>班長職への昇格はおおむね入社順序に行なわれてきたこと、<3>組合員であつて古参の者につき、勤務成績不良その他昇格させるにつき不適格とすべき特段の事情は立証されなかつたこと、<4>永年の労使紛争の過程および当委員会に係属した各種不当労働行為申立事件を通じて、会社の組合に対する敵視が認められ、それが解消し切つていないこと、<5>ライバル関係にある新労に属する者のみが班長職を占めるため、組合員の勤務に当つて世話が行き届かない点もあつたことが窺われ、ひいては組合の組織活動に新労と較べ不当に不便の点もあつたこと、などが認められ、会社が組合の組合員を班長職にしてこなかつたことは不当労働行為と認められる。

しかしながら、本件において、組合のかかげる前田ほかの特定の者が、昭和四六年五月一日付で当然に班長職に昇格すべきであつたとする主張は、個別的な不利益取扱いを確定させる意味では、確認しがたい。なんとなれば、班長昇格について、年功は重要な要素ではあるけれども、他の合理的な要素を加味して会社が行なつてきた点も窺われないではないし、その解雇につきいまだ行政訴訟で係属中であるから班長職に昇格を要求しなかつたとする組合の弁明は理解しうるところではあるが、前田より古参または同年代の組合員で、組合が昇格を要求していない者達も存在するし、さらに人数の限られた班長職への昇格問題は、組合の要求している者、組合の要求していない者で班長昇格の考えられる者および現在の班長職にある者などの間で調整を要する問題でもあるからである。

なお、組合が主張する指導運転手職への昇格については、同職が既に制度上廃止されているものと認められるので、その主張は失当である。

4 そこで、組合の請求それ自体を厳格に解すれば、申立てをそのままでは認容できないと考えられる。しかし、当委員会は、組合の申立てをそのように厳格に解する必要はないと考える。団結権の保障と労使関係の労働組合法の趣旨に沿つた正常化を任務とする労働委員会は、このような場合において適切な救済命令を考案する責務を有すると考える見地から、第二の三の前段の<5>で判断した諸点を考え、あわせて今後の労働関係の正常化を考慮し、主文のように命令することを適切と判断する。

以上の事実認定および判断に基づき、当委員会は、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条によつて、主文のとおり命令する。

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